株主総会法的瑕疵ゼロ作戦

【法的瑕疵ゼロ作戦の成功はそんなに難しくない】

法的瑕疵ゼロ作戦というと大変ハードな作戦(目標)のように聞こえますが、実際はごくやさしい作戦(目標)です。その理由は“法的”な瑕疵をゼロにするということについて注意を払えば良く、あらゆる不備やミスをゼロにするということではないからです。

不特定多数の株主を相手に招集する株主総会に一定の不備やミスは時に起こります。その不備があったからと言って頭をかかえて考え込んでしまっては先に進めません。その不備が決議取消事由となるような重大な瑕疵(不備)であるかどうかで割り切ればよいのです。決議取消事由にもならない不備は余り気にする必要はありません。その意味では“法的”瑕疵とはどのような不備をいうのかをまず頭においてゼロ作戦を練った方が楽です。一人で法的不備がゼロの株主総会を準備しようとすると体がもちません。

【決議取消の訴え、決議不存在確認の訴え、決議無効確認の訴え】

株主総会の決議に瑕疵があるときは、株主はその決議を否定することができます。会社法は決議の効力を否定するための訴えとして、①決議取消の訴え、②決議不存在確認の訴え、③決議無効確認の訴え の3つを規定しています(830条、831条、834条16号 17号)。
招集手続きが法令又は定款に違反する場合は取消事由になります。招集通知は中14日間置いて発送しなければなりません。株主総会を木曜日に開くときは遅くても2週間前の水曜日には発送しなければなりません。たった1日の不足でも決議取消事由となります。決議事項については会社法や会社法施行規則の定める内容が記載されているかどうかをチェックする必要があります。この点の参考書として前回紹介した三菱UFJ信託銀行 証券代行部編の「平成24年度株主総会実務なるほどQ&A」が便利です。また三種類の訴えについては会社法の代表的解説書 前田庸著「会社法入門」(第12版2009年)の392頁~402頁にわかりやすく説明がありますのでご覧ください。
招集通知状は今では招集通知状を印刷する株式会社プロネクサスや宝印刷株式会社がディスクロージャー専門会社として力をつけ、法的チェックもしてくれますが、会社担当者や顧問弁護士としては、自らも法的チェックをしておかないと総会当日質問にも立往生することにもなりかねません。

【株主総会当日における取締役の説明義務違反と決議の取消】

「株主総会、役員報酬、資料の閲覧謄写請求等をめぐる判例」については、河村 貢著「株主総会想定問答集」(別冊商事法務平成24年版)125頁~151頁に詳しく記載されていますのでご覧ください。株主総会当日において取締役の説明義務が不十分であるとして決議取消が認められた事案は役員の退職慰労金を贈呈する件ばかりで、次の2件です。

[ブリヂストン事件]

一審 東京地判昭和63年1月28日(商事法務1135号41頁、判例時報1263号3頁)—決議取消し—会社側敗訴
二審 東京高判昭和63年12月14日(商事法務1168号54頁、判例時報1297号126頁)—訴え却下(訴えの利益消滅)—株主敗訴
上告審 最判平成4年10月29日(資料版商事法務104号114頁、商事法務1303号48頁、判例時報1441号137頁)—上告棄却

[南都銀行事件]

奈良地判平成12年3月29日(資料版商事法務193号200頁)。
「金額を明確に公表せよ」という株主の要求を拒絶した結果、奈良地裁は判決で取消した。
会社は翌年金額を開示して再決議をし控訴審で和解で終了した。

 最近では会社役員の報酬は開示する方向にありますので、総会当日株主があくまでも納得しない場合には、退職者に贈呈する予定額を開示するように私は指導しています。決議取消訴訟で争われることによる時間と費用のロスを考えると係争はできるだけ残さない方が賢明です。

【説明義務に関する判例の考え方】

(1) 説明義務に関する判例の考え方は次の一連の電力会社決議取消請求事件の判決で示されています。
このうち九州電力決議取消請求事件を紹介します。

福岡地判平成3年5月14日(資料版商事法務87号69頁、判例時報1392号126頁)—会社側勝訴

(2) 九州電力決議取消請求事件
以下は、河村 貢著「平成24年版株主総会想定問答集」の原文のまま引用させていただきます。ただしアンダーラインは説明義務の範囲に関するものとして私が加筆したものです。

(この判決は株主の入場チェック、ゼッケン着用や写真撮影の禁止、質問状や説明義務の意義、一括回答の適法性、説明義務の限界、質疑打切りの適法性、議長の裁量権、動議の提出方法、決議の成立等株主総会において起こり得るさまざまな問題につき、従前からの実務上の取扱いを是認し、適切な判断を下している判決例である)

(判決要旨)

  1. 非株主が本件総会に入場しようとする相当な蓋然性があり、なおかつ、現実にも多数の非株主を含む原告らグループが一かたまりになって入場しようとした状況の下では、被告(会社)が入場資格を確認する必要は是認される。
  2. その方法として、議決権行使書用紙の提示を求め、なお、その提示者と議決権行使書用紙名義人との同一性に疑義が生じたときに、提示者に氏名、住所、持株数等を質問して株主本人か否か確認したことは、相当なものといえる。
  3. (会社側がゼッケンの取外しを要求したことについて)ゼッケン着用それ自体一方的で継続的な発言ととらえられかねず、また、ゼッケン着用者が集団的行動をとれば他の株主に対する示威行為にもなりかねず、議事運営に混乱を来すおそれのあることを否定することはできない。
  4. ・・・・・・・かかる状況において、秩序ある株主総会の議事を運営すべき立場にある被告がバッグを一時的に預けるよう要請し、これに応じない者については、バッグの中にこれらのものが入っていないことを確認しようとすることは、不当なものとはいえない。
  5. 会場内において不特定の株主が不規則に写真撮影を行うことは、プライバシーの問題から株主相互の不快感や軋轢の原因となりかねず、議場の平穏を乱すおそれがあるほか、自由な質疑討論の妨げにもなりかねない。したがって、被告が会場へのカメラ持込みを禁止することとしたことは・・・・・・被告の有する議事運営権の裁量範囲内にとどまるものであって、不当なものとはいえない。
  6. 事前の質問状の提出のみによっては、当該事前質問状記載の質問事項につき取締役等に説明義務は生じないものといわざるを得ない。
  7. 仮に報告事項について取締役等の説明義務違反があっても・・・・・説明義務違反という瑕疵がない別の目的事項の決議についてまで、これを理由に決議を取り消すことはできない。
  8. 取締役等の説明義務は、株主総会における決議事項につき、株主が賛否を決するための合理的判断をなすために必要な資料を提供することにある・・・・合理的な平均的株主が、株主総会の目的事項を理解し決議事項について賛否を決して議決権を行使するに当たり、合理的判断をするのに必要な範囲において認められる。
  9. 株主総会の円滑な運営の観点から、あらかじめ質問状の提出のあったものにつき、改めて・・・・・・質問を待つことなく説明することは、総会の運営の方法の問題として会社に委ねられている・・・・・説明すべき質問事項を取捨選択し一括してする説明が、直ちに違法となるものではない。
  10. 議長は・・・・・・合理的な時間内に会議を終結できるよう、各株主の質問時間や質問数を制限できると解されるし、相当な時間をかけてすでに報告事項の合理的な理解のために必要な質疑応答がされたと判断したときは、次の目的事項に移行すべく質疑を打ち切ることができるものと解される。
  11. 議長は・・・・・株主総会のいかなる段階で株主の発言を許し、また、発言を禁止するかを決定する権限を有している。・・・・・その裁量が議長としての善良なる管理者の注意義務の範囲内にとどまる限りは、議事運営が不公平なものとなることはないと解すべきである。
  12. 株主が動議を提出するに当たっては、議長が明認することのできる方法により、適式に、その提出を求めなければならない。
  13. 会計監査人の総会出席を求める動議は・・・・・監査役の監査報告後・・・・・求めれば足りるのであって・・・・・総会の冒頭において右動議の提出を受理しなかったことをもって・・・・・不公正があったとはいえない。
  14. 株主総会においては、議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したときに評決が成立するのであって、出席株主の明認し得る方法により評決がされれば、必ずしも挙手、起立、投票などの採決方法をとることまでを要しない。

【説明義務違反についての判例の考え方のまとめ】

  1. 仮に報告事項について取締役の説明義務違反が多少あっても、決議事項についてまでこれを理由に取り消すことはできない。
  2. 取締役等の説明義務は、株主総会における決議事項につき合理的な平均的株主が賛否を決するにあたり、合理的判断をするのに客観的に必要な範囲において行えば足りる。

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