離婚事件と夫の給与・賞与の仮差押・差押

離婚や遺産分割に関する事件を家事事件と言い、主に家庭裁判所が調停・審判・裁判という形で関わります。

一般の民事紛争は地方裁判所(ただし140万円以下の少額の事件や調停は簡易裁判所)が扱います。
地方裁判所の中心は訴訟手続きで、原告と被告という敵対関係のもとで緊迫した法的手続きが進められます。

それに比べると家事事件は調停重視で、離婚でも遺産分割でもベテランの男女の調停委員が、片方から約30分間ずつじっくりと話を聞き、解決策をさぐり双方に提案をしてくれます。
一般民事事件の緊迫した手続きと比べるとおだやかな手続きの中で進めるべく工夫されています。

離婚事件と弁護士の役割

数千億円や数兆円規模の企業再生事件やM&A事件はスケールとして大きく、時に弁護士が中心となり世間から花形の事件と写ることがあります。
それから比べると離婚事件はマイナーな事件と見られがちです。
そのうえ正常な夫婦関係を正の関係とすると、離婚は負の関係と言えるかもしれません。

しかし正の局面よりも負の局面においてこそ弁護士が必要なのであって、負の局面にどう向き合うかでその後の依頼者の人生が大きく違ってきます。
依頼者は人生の大きな岐路に立っており、この岐路においてどのような選択をするかを弁護士がサポートすることは、大規模なM&Aや企業再生事件にもまさるとも劣らない重要な仕事だと私は思っています。

離婚事件と夫の財産の差押・仮差押

論理的には差押には妻による夫の財産の差押だけでなく、夫による妻の財産の差押ということもありえます。
しかし、わが国ではこれまで、夫を中心に財産形成がされてきたので夫の側に財産や収入が片寄っている場合がほとんどです。

それを反映してか、私がこれまで手掛けた差押・仮差押事件は女性から依頼を受けた事件ばかりです。家事事件は家庭裁判所を中心にできるだけおだやかな手続で進められると言いましたが、依頼された弁護士もおだやかな目線で相手方に対応するか否かは事件次第です。

夫が妻子を置いて出て行って給料も入れない事件で、私は2件について夫の給与と賞与(ボーナス)を仮差押しました。
差押は調停が成立したのに約束どおりに支払わない場合や裁判で支払が命じられたのに支払わない場合に、相手の財産を換価して支払に充てる手続です。
仮差押は調停も成立しない前の文字通り仮の差押です。私は2件について依頼を受けて調停申し立てをする前に、まず夫の給与の仮差押を申立て、裁判所から命令をもらいました。
給与の差押は給与の4分の1しか押さえられませんが、夫がその会社で働くかぎり確実に4分の1ずつたまっていきます。

この2つの仮差押はその後全く違った展開となりました。

1件は仮差押後も妻子をかえりみず調停にも応じず、訴訟にまでなりました。
幸いに勤務先がしっかりとしていて給与もそこそこでしたから、2年6カ月の間調停や裁判をしているうちに数百万円が仮差押によってたまりました。
30年以上前の事件ですから数百万円はとても大きな金額で、最終的に裁判所の和解で終わりました。仮差押したお金は慰謝料として妻が手に入れることができました。
何もしていなければ離婚のときも一文無しで妻は泣き寝入りで終わる事案でした。

もう1つの給与仮差押事件は一つ目とはまったく異なる展開となりました。
若い夫婦と子ども1人の事件でしたが、子どもを連れて依頼してきた妻の話をもとに直ちに夫の給与と賞与の仮差押を申立しました。
仮差押命令が会社に届いた数日後、夫と妻と子の3人が一緒に私の事務所に突然やってきました。
妻から「先生に給与を差押えていただいたお陰で、夫はこれからしっかり働いて家族を支えると言ってくれました」と言い、はじめて会う夫も「すみません。これからはちゃんと家族を守っていきますから」と頭を下げてきました。
私はむしろ「あー、そうなの」とややとまどった思いをしましたが、給与仮差押の思わぬ効果でした。その後妻からは相談がありませんので仲良くいっているのだろうなと思っています。

夫の持つ工場の仮差押

結婚生活30年を超える夫婦で二人で力をあわせて小さな町工場を経営してきました。
妻が病に倒れたあと、夫は家を出てクラブの女性と同棲し、数千万円のお金を女性につぎこんでしまいました。

この事件では私は夫の持つ不動産(工場)を仮差押しました。
この不動産は夫が親から相続したものですが、夫が工場まで売ってしまう可能性があったからです。
持ち出した預金の穴埋めの意味も含めて最終的には財産分与として夫から不動産の譲渡を受けて調停で解決しました。

出版物に、抜き身も早く仮差押・仮処分手続をとるのがすぐれた弁護士の条件と書かれていた

家庭裁判所の手続きがおだやかであるからと言って、弁護士も調停委員と同じ目線で物事を進めると解決が中途半端になることが少なくありません。
おだやかな手続きだからこそ、依頼を受けた弁護士は事件を冷徹な目で見る必要があります。

私が30代の始めの頃出版された本の中に、すぐれた弁護士の条件の一つとして「抜き身も早い仮差押・仮処分」というくだりがありました。
この本やすぐれた先輩の仕事ぶりから仮差押・仮処分をすばやくとることの重要性を学びました。

東京地方裁判所には民事保全部と言って仮差押・仮処分を一手に引き受けるところがありますが、以前には申立てる弁護士で一杯でした。
今はガラガラです。どうしたことなのでしょうか。

それから離婚事件などの裁判をかつては地方裁判所が行っていましたが、今は家庭裁判所に変わりました。
それとともに家事事件の仮差押・仮処分も家庭裁判所が扱うことになりました。
私は夫のもつ工場の仮差押の申立事件を当初東京地方裁判所保全部に提出しました。
受付で突き返され恥をかいた経験があります。

生の事件は生の時に思い切った処理をしておかないと事件が腐り、裁判で勝っても名ばかりの勝訴となってしまいます。
依頼する側も弁護士に遠慮せず、弁護士にやってほしいことを積極的に申し入れた方が後で後悔することが少ないと言えます。

弁護士は法律のプロですが、依頼者にとって何が大切で何をしてほしいかを告げないとわかっていないことが少なくないのです。自分のことは自分で判断する心構えをもつことが大切です。

銀座通り法律事務所では、個人・法人を問わず法律相談を受け付けています。

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