老朽長屋の取毀しは自由か?【法律情報:マンション法2】

長屋分断で「耐震低下」…大阪の住人、賠償提訴

大阪市鶴見区の木造長屋に住む男性(56)が、隣家の解体で自宅の耐震性が著しく低下したとして、解体工事を受注した建築設計会社(大阪市)などに耐震改修工事費など約250万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴していたことがわかった。大阪市などによると、「長屋の切り離し」と呼ばれる一部住宅の取り壊しは耐震性の低下につながり、トラブルが相次いでいるという。一方で、木造長屋の建物全体の耐震強化も進んでいないのが現状だ。

訴状などによると、この長屋は1978年建築で、南北に6軒連なる。男性は約20年前に南から2軒目を購入。昨年8月、壁を共有する北隣2軒分の解体工事が始まり、間もなく更地になった。男性が1級建築士に調査を依頼したところ、男性宅の耐震性は解体前より4割低下したことがわかり、耐震工事を余儀なくされた。

(中略)

男性は「何の説明もないまま解体が突然始まり、地震による倒壊の危険性が高まった」と主張している。

今月1日の第1回口頭弁論で被告側は全面的に争う姿勢を示し、建築設計会社は「男性は解体を了解していた」などと反論した。

「切り離し」は、主に老朽化による取り壊しが目的。近隣の同意の必要性などについて法的な定めがないためトラブルが頻発し、大阪市立住まい情報センターには、耐震性の不安などを訴える相談が年間約200件寄せられている。

(注)図面は新聞記事の図面を略図化しています

長屋: 総務省は「二つ以上の住宅を1棟に建て連ね、各住宅が壁を共通にして、別々に外部への出入り口を持っている」と定義。同省が2008年に実施した住宅・土地統計調査によると、耐震基準が大幅に強化された1981年より前に建てられた木造長屋は全国に約48万3300戸あり、住宅総数の1%にあたる。

(2013年5月19日 読売新聞)

古い長屋と建物区分所有法

建物区分所有法が成立したのは,昭和37年4月4日で,翌38年4月1日から施行されました。昭和58年5月13日敷地・敷地利用権などを明記した大改正が行われ,昭和59年1月1日から施行されました。

「建物の区分所有については,明治29年公布にかかる民法典前三編中において既に規程が存在した。次の2ヶ条である。
第208条 数人ニテ一棟の建物ヲ区分シ各其一部ヲ所有スルトキハ建物及其附属物ノ共用部分ハ其共有ニ属スルモノト推定ス
② 共用部分ノ修繕費其他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格ニ応シテ之ヲ分ツ
第257条 前条ノ規定(共有物の分割請求に関する規定-編注)ハ(は)第208条及ヒ第229条ニ掲ケタル共有物ニハ之ヲ適用セス

(中略)

すなわち民法典においては,一棟の建物を区分してその各部分を独立の所有権の対象とすることができるということを当然の前提として,その場合における共用部分等の共有関係と費用負担についての極めて概括的な規定のみを用意したのである。
これらの規定は,その立法当初から,西洋式の横割りの区分所有についても適用されるものと解されていたものの,実際は,往時ににおけるわが国の区分所有建物といえば,ほとんどが単純な縦割式のいわゆる棟割長屋に限られており,それも,区分所有関係になっているものは極くわずかであったから,このような簡単な規定だけで対応することが可能である(濱崎恭生著「建物区分所有法の改正」1989年8月発行。1~2頁)。」

大阪の事例は,建物区分所有法施行後に建てられた連棟式建物ですが,同法にもとづく区分所有建物として登記されているのか否かわかりません。昭和38年4月3日以前に建った建物の場合はどのように登記されてきたのか事例を集めてみたいと思います。事例によっては脱法的に独立した6つの建物として登記されたものもあるかもしれません。一棟の建物としての登記であれ,6つの建物であれ,この場合に建物が老朽化したという理由で,連棟式建物の一所有者が自分名義の土地・建物を勝手に毀すということは可能でしょうか。

壁はどこまでが共有で,どこからが専有か

法務省民事曲参事官室編「新しいマンション法」(1980年11月)71頁は,区分所有建物の壁,床,天井部分については次のように述べています。

 専有部分相互間の境界部分を構成する際,床,天井等は,どれだけが専有部分であり,又は共用部分であるかについては,次の3つの考え方があります。
第一説は,境界部分はすべて共用部分であり,境界部分によって取り囲まれた空間部分のみが専有部分であるとする考え方(共用部分説又は内壁説)であり,第二説は,逆にこれらの境界部分は共用部分ではなく,その厚さの中央までが専有部分の範囲に含まれるとする考え方(専有部分説又は壁真説)であり,第三説は,これらの境界部分の骨格を成す中央の部分は共用部分であるが,その上塗りの部分は専有部分の範囲に含まれるとする考え方(折衷説又は上塗り説)です。
また,内部関係(区分所有者相互間で建物を維持管理する関係)においては,第三説が相当であるが,外部関係(保険,固定資産税等第三者に対する関係)においては,一般の慣行に従って第二説をとるのが相当だという考え方もあります。
この点については,学説上も,また区分所有者の一般の理解も,第三説が次第に定着しつつあるように思われます。第一説によると,専有部分は空間だけということになって,専有部分についての所有権を認めることと矛盾しますし,区分所有者は,内装工事もできないことにになって実情に合致しません。第二説によれば,壁の中心まで各区分所有者が自由に変更を加えることができることになって,建物の維持管理の観点から適当でありません。したがって,第三説によるのが適当でしょう。 

第三説によると壁の上塗り部分を除く壁の骨格をなす部分は共用部分となります。

共用部分(壁)を合法的に取毀すための要件

  1. この連棟式建物(長屋)が建物区分所有法の適用のある場合,同法17条1項にもとづき集会の決議を要します。決議は議決権の4分の3以上の賛成が必要です。決議要件は規約で過半数まで下げることが可能です。この場合いくら隣人同志が取り毀しに賛成しても集会の決議がなければ取り毀しはできません。
  2. この連棟式建物(長屋)が建物区分所有法の適用がないものであったらどうでしょうか。この場合は登記上どのようになっているかわかりませんが,実質上はA・B・C・D・E・Fの6人が土地・建物を併立して持ち,壁だけがAとB,BとC,CとD,DとE,EとFが共通して使っている(それぞれ共有している)ということになります。この場合,CとDの二人が相談して,CとDが使っている建物の部分を取り毀すことは可能でしょうか。
    CとDだけで勝手に取毀すことはできないと思います。仮に脱法的に6つの建物として登記していた場合でもBとCの壁の骨格部分については実質上Bが共有持分権を有しており,DとEの壁の骨格部分は実質上Eが共有持分権をもっていますから,その承諾なしに取毀すことはできません。共有登記の場合は当然共有者全員の同意が必要です(民法251条)。なお取毀しの承諾があったとしても隣接建物に損害を与えた場合は損害賠償義務が生じます。
    将来の紛争を防ぐためには,毀す前に十分話しあっておく必要があります。必要な場合隣接家屋に毀損がないように保全・補修工事をする必要があります。老朽化が著しいが,隣人が何を言っても賛同してくれないときはどうすればよいでしょうか。私は民法258条に基づき裁判所に共有物分割請求をしてみるのが一つだと思います。民法257条・229条によれば,境界線上に設けた障壁の分割請求はできないとしていますが,老朽化が著しい場合には裁判所はそれなりの解決案を考えて指導した上,話し合いがつかないときは判決を出してくれると思います。

 

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